「これからは温泉の時代です」―温泉のプロみたいな編集者に乗せられて、ブームに乗るのも癪だけど、ギャルを横目に湯治場荒らしが始まった。
北は北海道から南は九州まで、全国の名湯秘湯怪湯奇湯で起こった、人には言えぬさまざまなできごとはもちろん、泉質、効能、宿に観光コース、食べ物屋情報までもれなくフォローした、全巻から湯煙たちのぼるきわめつけ温泉紀行。
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函館に行ったら銀花へ寄ろうと思い詰めていた。
そこへ行ったらママさんが僕のことを覚えていてくれた。
それだけのことである。他に何もない。
あまり意味がない。
しかし、これが人生だという感情はどこからか湧いてくるのだろう。
そうして、僕は、この世に生きるということは、こういうことであるに過ぎないという思いが、なおも激しく去来するのである。
旅は、それがどんな旅であっても、常に冒険旅行であることを免れない。
温泉旅行というのは、家に帰って、自分の家の風呂に入って疲れを癒やしたときに終るのだとも思っている。
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本文より
目次
西伊豆早春賦
回想の中房温泉
療養上等、碁点温泉
九州横断、由布院盆地
憧れの常磐ハワイ
玉造、皆美別館の夜
熱塩温泉、雪見酒
下北半島、海峡の宿
なぜか浦安草津温泉
春宵一刻価1万5千2百円
ほか
出版情報
出版社名:新潮社
著者名:山口 瞳
発行年月日:1985年12月15日
著者プロフィール
山口 瞳(やまぐち ひとみ)
1926年1月19日東京で生まれ。
同年同月に異母兄が誕生したため、11月3日生まれと届けられる。
鎌倉アカデミアに入学、伴侶となる古谷治子と出会う。
その後、国学院大学を卒業。
1946年出版社の国土社に入社して以来、作家になっても出版ジャーナリズムに身を置き、同時に壽屋(現サントリー)でのサラリーマン生活を続ける。
1963年『江分利満氏の優雅な生活』で第48回直木賞を受賞。
父の浮き沈みの激しい生き方に翻弄された経験と、母の実家が遊郭の貸座敷だったことが、『血族』や『家族』などの独自の私小説世界を拓かせる。
1995年永眠。